アンプを通してギターが弾けるようにしたら、出力が不安定になっているのが痛々しくもわかるようになった。ボリュームノブをまわせばノイズが混ざる。ピックアップを切り替えるといっそう深刻に乱れる。取り替えたてのシールドの取り回しにさえいやな雑音がつきまとって、楽器そのものが修理を欲しているのが耳にきこえるようになった。

ヤマハのフルアコは、十二年くらい前に中古で手に入れたものだ。大学一年生のときだったかな。中古のものがさらにディスカウントされていた。手の届く値段を第一にえらんだ。78年製とかときいて、安物というよりも掘り出し物とおもった。すげえビンテージじゃんといって気に入ったのだった。

そこから三年くらいはそれなりに熱心に使い倒したあと、何年か触りもしない時期があって、最近になってまた取り出して弾くようになったのだった。つまりは、メンテナンスがひどく欠落している。製造年がわかる資料は手元になくなってしまっているけれど、ほんとうに78年製だとしたら、もしかすると五十年ちかくにわたってなにも手入れされていないということもあるかも。

いちどリペアしてもらおう。といって「ギター修理」と調べたとき、女川に工房があるのを知った。小さなお店にみせかけて、全国的な存在感で依頼をあつめているみたい。ほとんど悩みもしないで申込みをして、定休が明けた日に女川駅前の遊歩道のならびのお店にギターを持ち込んだ。

あらかじめウェブフォームで問診票を書いて出しておいた。職人さんはつかず離れずの絶妙な応対をしてくれた。パッとみただけでフレットが摩耗していそうですねと言い当てて、精密測定にかけるのですこしお待ちくださいとおっしゃった。隣のコーヒー屋さんでちいさいドーナツを食べて待ったら、十五分くらいで電話が鳴って、お店にもどった。

測定結果をみせてもらいながら、指板が波打っているのをおそわった。調整のやりかたは、ひとつにはフレットの調整でうまくやって応急処置すること。弦のビビりはそこまで悪くないので、微調整の範疇で改善することはできる。そうはいっても、もとよりフレットが減ってしまっているので、限界はある。そこでもうひとつには、フレットの打ち直しをともなって指板を削って調整するやりかたがある。抜本的な改善は、大工事になる。

で、大工事のほうをやってもらうことにした。よくて十二年、ひどければ五十年ではじめての大メンテナンスだ。フレットの打ち直し、指板を削ってのバランス調整、牛骨ナットの交換(そこにあるのが牛骨だということも知らなかった)。だいたいそれで、材料費と工賃でこれくらいですと見積もってもらった。電装系の点検はそれとは別にじっくり見てもらって、あわせた見積もりを後日また知らせてもらう。

ぜんぶあわせると、もともとこのギターを買うのに支払ったのとおなじかそれ以上の支出でもって修理してもらうことになるようだ。こちらには技術が備わっていないためそれが高いとも安いともいえないけれど、これまで愛着もって持ち歩いてきたのを情なく買い替えてしまおうとはおもわないときに、おもいきり入院させて点検してもらってこれからまた長く付き合っていけるのはありがたいことにおもった。

パーツのつなぎ目まわりの塗装がはがれることがある。これはあとから目立たないように直すことはできるが、ひとつ不可逆なリスクにはなる。それから、指板を削って調整する都合につき、指板上に刻印された製造番号は削り取られてみえなくなる。ポジションマークも、つくりによってはちいさく削げることがある。これはあとから復元することはできなくて、明確に不可逆な変更になる。それらを説明してもらって、わかりましたといって、約三週間の予定であずけさせてもらった。